エリート御曹司は獣でした
呆れたようなため息をついたのは、久瀬さんだ。

彼は厳しい声色で、私に代わって乗友さんたちに反論してくれる。


「相田さんの仕事はミスが少ない。正確で丁寧。頼んだことは期日前に仕上げてくれる。俺は助けられている側だよ。調子乗るなとは、どういうことだ? 積極性は大切だろ。君たちは常に控えめに仕事をしているのか?」


「うっ……」と呻いた乗友さんは、同期の陰に隠れるように足を一歩、斜めに引いた。

私の頭にはまだ、“地味でダサイ”という言葉が流れており、彼女を助けてあげようという気持ちが湧かずにいる。

「相田さん、他にはなにを言われた?」と久瀬さんに問いかけられて、正直に肉のことも打ち明ける。


「私の肉好きが行き過ぎて、私に会うと背景に焼肉屋が見えたり、幻臭がするから迷惑だと言われました……」

「そんなことはーー」


それに関してもただちに言い返そうとしてくれた久瀬さんであったが、途中で言葉を切り、黙り込んだのはどんな理由があってのことだろう。

数秒考えた結果、幻覚幻臭を与えるほどの私と肉の強固な結びつきを否定できなかったようで、勢いをなくした彼はとつとつと援護する。


「俺は、嫌じゃない。美味しそうに肉を頬張る相田さんを見ていると、手近に夢中になれるものがあって、羨ましいと感じる……」

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