エリート御曹司は獣でした
私が傷ついていることなどお構いなしに、周囲からは安堵の息が漏れる。

その多くは女性社員のものである。

まだ自分たちにも彼女になれるチャンスがあると思ったのか、それとも、エリート御曹司の彼の恋人は、誰もが納得するような才色兼備の女性であってほしいという願望を抱いているためかもしれない。


男性社員の中には、「なんだ、やっぱり天然娘の勘違いだったか」と呆れ顔をして、興味なげに自席に戻ろうとしている人がいた。


ちょうど始業時間になり、間もなく朝礼が始まることだろう。

これで解散かと思われたが、同課の三十代男性社員が、「怪しいな……」と呟いて、私と久瀬さんを見比べていた。

そして、「相田さん、ちょっとこっち来て」と私の腕を引いた。


彼と半歩の距離で向かい合い、首を傾げれば、「睫毛にごみがついてるよ。取ってあげるから目を閉じて」と言われた。

彼は日頃から丁寧に仕事を教えてくれる、良き先輩社員である。

目元になんの異物感もないが、「ありがとうございます」とお礼を述べて目を閉じたら……一拍置いて、突然強い力で後ろに引っ張られた。


声も出せないほどに驚いた私は、なにかの上に尻餅をついてしまう。

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