エリート御曹司は獣でした
久瀬さんは私にぶつけられた額をさすりつつ、「へぇ、それで?」と続きを促す。

それは適当な言い方で、今の彼には、久瀬さん本来の真面目な意識が少しも浮上していないように感じられた。

唇をなまめかしく舐める彼に、私は深刻そうな表情を作って訴える。


「ひとつ問題が発生しました。仕事の依頼は大変ありがたいのですが、最初の商談の場に高級料亭を指定してきたんです」


望月フーズの長野さんと言えば、私がミスをして久瀬さんとお詫びに行った時に、食事の要求をしてきた人だ。

老舗ホテル内の有名寿司店で大食いぶりを見せつけられ、驚いたのはまだ記憶に新しい。

あれに味をしめたのか、次の仕事が欲しければ高額接待をしろと言わんばかりの電話で、私は呆れてしまった。

コラーゲンたっぷりのスッポン鍋を食べてみたいと言われたら、『どこの奥様ですか!』とツッコミを入れたくなってしまう。


その連絡が来たのは昨日の午後のことで、その時、久瀬さんは席を外していた。

そのため、接待の返事を取りあえず保留にして電話を切った後に、私は課長に相談した。

『そこまでの対応はできないとはっきり断っていい』と課長が言ったので、月曜日に長野さんに電話をして、そう伝えるつもりである。

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