エリート御曹司は獣でした
すると……激しくむせ、三分の二ほど中身の残ったグラスを落として割ってしまった。

久瀬さんをむせさせたのは、強い酸味と塩辛さだ。

飲まされたのはコーラではなく、ポン酢の炭酸水割りであった。

コーラに見せかけるための炭酸水はごく少量で、原液と大して変わらない味であったらしい。


幸秀くんはグラスを口に当てただけでひと口も飲んでおらず、いたずら成功とばかりに腹を抱えて大笑いしている。

喉を押さえて苦しむ久瀬さんが、「水!」と叫んで水道に駆け寄ろうとすれば、幸秀くんが両腕を広げて立ち塞がった。


「ここの水を飲みたければ、俺の宿題やるって言えよ」

「意地悪するなよ!」

「隆広は真面目だから、からかいたくなるんだよな。とにかくここの水は駄目。洗面所ならいいよ」


ニヤニヤしているその顔は、まだなにかを企んでいそうな雰囲気であった。

けれども、久瀬さんはまだむせ込んでいて、一刻も早く喉の内側を水で洗い流したいと、それだけしか考えられず、キッチンを飛び出した。


< 217 / 267 >

この作品をシェア

pagetop