エリート御曹司は獣でした
「私も、ですか……?」


治療目的ならいざ知らず、ただ懐かしい知り合いに会いに行くだけで、私が同行するのはおかしい気がする。

首を傾げていると、久瀬さんがテーブルの上で右手を伸ばし、私の左手を取った。

私の左手はチキンを刺したフォークを握っていたので、それごと持ち上げられて、軽く引き寄せられる。


久瀬さんがなにをしようとしているのかがわからず目を瞬かせていたら、彼が私のフォークにパクリと食いついたから驚いた。

いたずらめかした調子で「うまい!」と笑った彼は、それから目を細めて私を見る。


「奈々子が食べているものの味を知りたくなったんだ。同じものを見て、食べて、笑い合いたい。小百合さんは数年前に結婚したと母から聞いている。確か今は北海道に住んでいるはずだ。住所と連絡先も、母に聞けばわかるだろう。奈々子、一緒に行こう。旅行を兼ねて」


く、久瀬さんに、旅行に誘われた……。


目を丸くして驚いた後は、喜びに鼓動が速度を上げていく。

偽恋人なのに、そんな贅沢な幸せをもらっても、いいんですか……?

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