エリート御曹司は獣でした
振り向けば、私に笑顔を向けているのは、広報マーケティング部所属で、私と同期入社の女性社員である。

ギクリとしつつも、「うん、そうだよ」と私は嘘をつき、後ろめたさから「じゃあね」と、そそくさと会議室内に逃げ込んだ。

閉めたドアに背を預け、ホッと息をつく。


「ほんの少し、肉を食べるだけだもの。その方が仕事に集中できるし……」


無人の会議室で、誰にともなくボソボソと言い訳をした後は、さてどこで食べようかと室内を見回した。

椅子を二脚備えた長机が、横に四列、縦に十二列、整然と並んでいる。

最奥にはホワイトボードやスクリーン、演説台が置かれていて、私は窓の方へと歩きだした。


今日は天気が悪いので大会議室内は薄暗く、照度不足であるが、さぼりの分際で電気をつけるのは忍びない。

それで、ぼんやりとした外光が入る、窓辺で食べようと思ったのだ。


雨に濡れる裏のビルの壁を眺めながら、ファイルの間からビーフジャーキーの袋を取り出す。

ひと口にビーフジャーキーと言っても、メーカーによって味が微妙に違い、値段もピンキリである。

今、開封したものは、国産和牛の名前が書かれた高級品で、数日前にネットで見つけ、『もうすぐ給料日だからいいよね』と思いきって注文した特別な品であった。

ひと袋、四十グラムで、なんと二千五百九十二円もする。

< 23 / 267 >

この作品をシェア

pagetop