エリート御曹司は獣でした
慌てた私は、ファイルとビーフジャーキーの袋を抱え、近くの長机の裏に屈んで身を潜めた。


二度のノックの後に入ってきたのは、ひとりの男性社員である。

私の隠れた位置からは、彼の黒い革靴とスーツのズボンの裾が確認できた。

「誰もいないな……。よかった」と独り言が聞こえ、その声で私は、彼が誰であるかに気づいた。

久瀬さんだ。

一緒に仕事をしている先輩で、かつ優しい彼ならば、ほんの少しのさぼりくらいは大目に見てくれそうな気がする。


どうしよう、出ていこうか……?

でも、まだ口の中にはビーフジャーキーが残っているし、業務時間中の肉チャージを知られるのは、やはり恥ずかしい……。


迷いの中、緊張で鼓動を高鳴らせていたら、彼が私の隠れている長机の、斜め後ろの机に着席した気配がした。

ガサガサと音がして、どうやらビニール袋からお弁当とペットボトル飲料を取り出している様子。

お弁当はおそらく、乗友さんから差し入れられたものと思われた。

ここでお昼を食べるつもりなんだ……と理解した私は、口の中のビーフジャーキーを急いで飲み込む。

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