エリート御曹司は獣でした
やはり隠れているのはよくないと思ったのだが、その直後に、「いらないのにな……」という疲れたような彼の呟きを聞いてしまい、出ていく勇気を完全に失ってしまった。

こうなればもう、久瀬さんが食べ終えて出ていくまで、気づかれるわけにいかない。

盗み聞きの罪悪感七割と、普段の好青年の彼とは違った一面を見られるのではないかという好奇心三割で、机の端からそっと目だけを覗かせる。


「黒酢肉団子弁当か。黒酢……なら、大丈夫だろ」


そう言った彼は、お弁当のプラスチック容器の蓋を開けている。

その言葉はどういう意味かと疑問に思い、私は首を傾げる。

仕出し屋のお弁当の中で、嫌いな種類のものでもあるのだろうか……?


机上のペットボトルの緑茶に邪魔され、ちょうど彼の顔が隠れてしまっているが、割り箸を割っているのが見えた。

肉団子をつまみ、ひと口で頬張っている。


美味しそう……。

仕出し屋のお弁当は、私にしたらご飯の量が多く、肉の量が足りないので、今まで買ったことはない。

けれども、久瀬さんが食べた肉団子は大きくて、照りのある黒酢餡が絡まり、私の食欲が刺激された。
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