エリート御曹司は獣でした
固唾を飲んで見守る私の前で、久瀬さんは湯のみを座卓の上に戻した。

そこから五秒、十秒と、静寂の中に時間は過ぎていく。

彼は目を閉じて、じっとしているだけで、いつものように苦しみだすことはなかった。

まるで眠っているかのように静かな呼吸を繰り返している彼に、「久瀬さん……」と恐る恐る問いかければ、ゆっくりと瞼を開けた彼が涼やかな瞳に私を映した。


「どう、ですか?」

「変わらないな。口の中にはポン酢の味が広がっているのに苦しくない。意識もはっきりしている」

「ということは……?」

「ああ。治ったようだ」


真顔で淡々と会話した私たちは、一拍置いてから同時に破顔し、喜びを爆発させた。

「ヤッター!」と叫んだ私が飛びついてしまったら、彼は広い胸と逞しい腕で抱き止めてくれて、明るい笑い声をあげる。


「ありがとう。正直、治る日がくるとは思わなかった。全て奈々子のおかげだ」

「私はついてきただけで、なにもしてませんよ。お礼なら、小百合さんに言った方がーー」

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