エリート御曹司は獣でした
落ち着いた低い声が、静かな和室に、染み渡るように響く。

私は驚きに目を見開き、込み上げる期待で胸が張り裂けそうになっている。


それって、つまり……。


私を傷つけたくなかったという言葉の、次が早く聞きたい。

偽恋人関係が終了すれば、同課の先輩後輩として、仕事上の接点のみの寂しい関係に戻るのだと覚悟していたのに、私はこの恋を諦めなくていいのだろうか。


自分の速い鼓動を耳の奥で聞きながら、彼の胸に手を添えて、催促するように呼びかける。


「久瀬さん……」


彼の右手が、私の頬に包むように触れた。

熱っぽく艶めいた瞳で、唇の両端を緩やかに上げた彼が、誠実な声で想いを告げる。


「奈々子が好きだ。今から本気の恋を始めてみないか? これまで助けてもらった分、今後は俺が守りたい。大切にするよ、この先ずっと」


これは、夢……?

あまりにも嬉しくて、もしかすると私の願望が幻覚のような白昼夢を見せているのではないかと疑ってしまう。

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