エリート御曹司は獣でした
突然のことに「キャッ!」と声をあげて、彼の顔を仰ぎ見れば、ニッと口の端をつり上げた彼から額にキスをもらった。


「奈々子は素直で健気だよな。俺はそういうのに弱いみたいだ。これ以上はもう、我慢できそうにないよ」


そう言って歩き出した彼は隣室へ移動し、布団に私を寝かせると、両腕をシーツに突き立て覆い被さった。

心臓が壊れそうなほどに大きく速く鳴り立てる私は、心の中を忙しくする。


時には久瀬さんに抱かれることを妄想し、ひとりでこっそりと照れていた私なので、この状況はまさに願い通りである。

けれども喜びと同じくらいに不安も沸いて、私の帯を解こうとしている彼に慌てて言った。


「く、久瀬さん。すごく言いにくいことなんですけど……」


「なに?」と手を止めてくれた彼だが、溢れさせる色香は抑えてくれない。

行灯に照らされる瞳を熱っぽく潤ませて、話の続きを待ってくれている彼に、私は「あの……」と三回繰り返してから、意を決して打ち明けた。


「私、こういうの初めてなんです。男性と交際したことは過去に一度だけあるんですけど、体の関係に至る前に、ふられてしまいました……」


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