エリート御曹司は獣でした
額に脂汗をにじませ、呼吸を乱し、かなり苦しげな様子なのに、彼は私を落ち着かせようと話しかけてくる。


「アレルギーではないから、慌てなくていい。俺は大丈夫。とにかく、逃げて、くれ……」

「へ? 逃げるって、私がですか?」


意味がわからず、私はオロオロするばかり。

そんな私の右肩を掴んで押し、なるべく自分から遠ざけようとする久瀬さん。

しかし、「うっ」と一際苦しげに呻いたと思ったら、顔をうつむかせて急に動かなくなった。


「く、久瀬さん……?」


呼吸はしているので、命に別状はない。

気絶したのかと思ったが、しっかりと自分の足で立っており、それも違うようだ。

それならば、なぜ固まったように動かなくなってしまったのか……。


恐る恐る横から彼の顔を覗き込めば、視線が合ってニヤリとされた。

ゆっくりと顔を上げた彼は、先ほど取り上げた私のスマホを自分のジャケットのポケットにしまうと、その手で前髪をかき上げた。

その仕草はやけに艶っぽく、私に流された視線は蠱惑的である。

いつもは爽やかで誠実な彼の雰囲気がガラリと変わり、私は戸惑う。

思わず片足を下げたら……手首を掴まられて引き寄せられ、逞しい腕の中に抱きしめられてしまった。
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