エリート御曹司は獣でした
私たちは入社三年目の同期で、社外でも親しい友人付き合いをしているため、私が無類の肉好きであることを、香織はよく理解してくれている。

けれども偏った食の嗜好を隠しているわけではないので、彼女だけではなく、この部署のほとんどに知られていそうな気もした。


一緒にテーブルを囲んでいるのは、ひとつ上の先輩OL綾乃さんと、ひとつ下の後輩、八重子ちゃん。

私と香織の会話をウフフと笑って聞いていた綾乃さんが、おっとりと癒し系の顔で、私をからかった。


「奈々ちゃんのお肉にかける情熱は、すごいわよね。『恋より肉!』って叫ばれた時のこと、まだ覚えてる」


それは昨年のバレンタインデーの前に、この四人で職場用の義理チョコを買いに行った時の話だ。

デパートの地下二階には、バレンタインチョコの特設売り場の他に、お洒落なお惣菜を売る店舗が数軒入っていた。

ショーケース内で美しく輝くローストビーフを見てしまった私は、ついチョコ売り場を外れて、そちらの方へフラフラと。

それを引き止めようとした綾乃さんに、『バレンタインよりローストビーフ。恋より肉!』と目をギラつかせて叫んだのだ。


今さらながらに恥ずかしく思い出しながら、私はウィンナーをパクリ。

すると今度は入社二年目の後輩、ど天然の八重子ちゃんが、コンビニのおにぎりを食べながら、やや的を外した感想をくれた。


「奈々さんがお肉に夢中なのは納得です。だって奈々さんの肉弁当、いつも美味しそう。食べても太らない体質なんてズルイ。私も人目やカロリーを気にせずに、お腹いっぱい脂身食べたいですー」

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