エリート御曹司は獣でした
平謝りの彼の言葉を、私は「あの」と遮った。

驚きから完全に回復してはいないけれど、聞かずにはいられない。


「お詫びより、教えてください。さっきのこと、全く覚えていないんですか? え、どうして……?」


それから十分ほどして、食べかけのお弁当とお茶ののせられた長机を前に、私たちは並んで座っている。

ちょうど彼の事情を聞き終えたところで、「それは大変な思いをされてきたんですね……」と私はしみじみとした感想を述べた。

久瀬さんは黒酢肉団子弁当に蓋をしてビニール袋にしまうと、ため息をつく。


「そうなんだ。この体質のせいで、今までどれだけ、女性に迷惑をかけてきたことか」


彼のいう体質とは、ポン酢を口にすると先ほどのようなセクシー男に変身し、強引に女性に迫ってしまうというものだ。

それは十二歳の時から始まり、変身している時間は三分ほど。

その間の記憶は曖昧で、夢から覚めたような気分で元に戻るらしい。

セクシー男になった彼は、近くにいる女性を誰彼構わず口説いてしまい、我に返った時には見知らぬ女性とキスしていたり、ホテルに連れ込む寸前であったりと、今まで何度かトラブルを起こしてきたという。

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