エリート御曹司は獣でした
十二歳の時からということは、十六年間もその変身体質に苦しめられているということになる。

「それって、治せないんですか? 病院は?」と心配すれば、残念そうに首を横に振られた。


「学生の頃、親に連れられて、あちこちの病院を受診したんだ。薬剤治療や行動療法に催眠療法、いろいろ試したがーー」


名のある医師のもとで、様々な治療を施されたそうだが、少しも改善せず、しまいには詐病ではないかと疑われたらしい。

変身体質を免罪符に、性的な欲求を満たそうとしているのだろうと言われ、学生の頃の彼は深く傷ついた。

それ以降、病院での治療を諦めたと久瀬さんは話してくれた。


彼の重たいため息が、会議室に広がる。


「ポン酢を摂取しないように生きていくしかないんだ。それでも先ほどのように、思いがけず口にしてしまうことが、稀にあるが……」


正面に顔を向けて言った彼は、疲れたような目をしていた。

それから、「事情はこんなところだけど……」と私に振り向き、「相田さん!?」と目を見開いて驚いている。

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