エリート御曹司は獣でした
「どうして泣いてるの?」
「悔しいんです……」
「え?」
久瀬さんの打ち明け話に激しく同情した私は、目に涙を浮かべていた。
それを流すまいと唇を噛みしめ、鼻の付け根に思いきり皺を寄せて、震えながら耐えている。
おそらくは、自分史上、最も不細工な顔になっているのではあるまいか。
このひどい形相を見て気圧されている久瀬さんに、体ごと向き直った私は、両手で彼の右手をガシリと握りしめて、涙声で問いかける。
「今まで、飲み会の誘いを断っていたのは、ポン酢を避けるためなんですね?」
「あ、ああ。それと、なるべく社内の人と、親しい関係にならないようにしている。この体質のことを知られたくないんだ。それより、相田さん、この手は……」
ぎこちない作り笑顔を浮かべる彼は、私の手をそっと外して、代わりにハンカチを差し出してくれる。
その手をハンカチごと強く握りしめて、彼を怯ませた私は、椅子に腰掛けているお尻の位置をずらして、にじり寄った。
「人付き合いが嫌なんじゃなく、その体質を知られたくないだけなんですね?」
「そ、そうだよ。相田さんのしゃぶしゃぶパーティーも断ったことがあったよな。ごめん。参加してみたかったけど、リスクを考えると断るしかない」
「女性社員をふりまくっているのも、彼女がいるからではなく、体質のせいですか?」
「いや、それほど告白されてはいないよ。十人くらい……かな。俺は恋人を作るわけにいかない。ポン酢をうっかり口にして他の女性に手を出してしまったら、恋人を裏切ることになるからね。相田さん、それよりも……」
「悔しいんです……」
「え?」
久瀬さんの打ち明け話に激しく同情した私は、目に涙を浮かべていた。
それを流すまいと唇を噛みしめ、鼻の付け根に思いきり皺を寄せて、震えながら耐えている。
おそらくは、自分史上、最も不細工な顔になっているのではあるまいか。
このひどい形相を見て気圧されている久瀬さんに、体ごと向き直った私は、両手で彼の右手をガシリと握りしめて、涙声で問いかける。
「今まで、飲み会の誘いを断っていたのは、ポン酢を避けるためなんですね?」
「あ、ああ。それと、なるべく社内の人と、親しい関係にならないようにしている。この体質のことを知られたくないんだ。それより、相田さん、この手は……」
ぎこちない作り笑顔を浮かべる彼は、私の手をそっと外して、代わりにハンカチを差し出してくれる。
その手をハンカチごと強く握りしめて、彼を怯ませた私は、椅子に腰掛けているお尻の位置をずらして、にじり寄った。
「人付き合いが嫌なんじゃなく、その体質を知られたくないだけなんですね?」
「そ、そうだよ。相田さんのしゃぶしゃぶパーティーも断ったことがあったよな。ごめん。参加してみたかったけど、リスクを考えると断るしかない」
「女性社員をふりまくっているのも、彼女がいるからではなく、体質のせいですか?」
「いや、それほど告白されてはいないよ。十人くらい……かな。俺は恋人を作るわけにいかない。ポン酢をうっかり口にして他の女性に手を出してしまったら、恋人を裏切ることになるからね。相田さん、それよりも……」