エリート御曹司は獣でした
今日も久瀬さんは素敵だと思いつつも、意識を渡されたメモ用紙に移した私は、立ち上がって彼に問いかける。


「原紙の価格推移表の作成ですか……。もしかして、オリハラ食品さん新商品の件ですか?」

「そう。納入業者の提示額に納得してくれないから、説得材料にしようと思って。それでも駄目なら、製品の質を下げるしかないよな」


彼はそう言って、少し困ったように笑った。

この会社は、菱丸(ひしまる)紙パルプ株式会社。

三大商社と言われている菱丸商事の、紙部門のグループ会社である。

原紙の調達から顧客に紙製品を納入するまでのプランニングが主な業務で、久瀬さんと私が所属する第一課は、食品梱包用ダンボールや惣菜の紙トレーなどの食品包材を扱っている。

第一課は三十八名だが、このフロアは第四課まで事業部の総員百五十名ほどが使用しているため、とても広く、昼休み時間の今はあちこちで雑談が交わされ、賑やかであった。

そんな中で久瀬さんはひとり、コートと鞄を手に、顧客訪問に出かける格好をしているのが気になった。

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