エリート御曹司は獣でした
「久瀬さんは、どちらへ?」と問えば、オリハラ食品とは別会社の名前を言われる。


「打ち合わせ時間を変更してほしいと連絡が入ったんだ。これから行ってくる。わからないことがあれば鈴木係長に聞いてね」

「はい、わかりました。あの、久瀬さんは昼食を取ったんですか?」

「いや、時間がないから今日はいらない。腹減ってないし平気だよ。ありがとう」


私なら、たとえ顧客からの要望であっても、肉チャージができないような昼食時のアポイントの変更は受けつけない。

けれども久瀬さんはこともなげにそう言って、「相田さん、それ頼むな。十四時半までには戻る」と身を翻した。


颯爽と部署を出ていく後ろ姿にもイケメンオーラが溢れ出ており、見惚れてしまう。

しかし気持ちはすぐに、「あっ、肉!」と戻されて、メモ用紙をポケットに入れた私は、椅子に座り直して続きを食べ始めた。

生姜焼きを頬張っていると、「さすが奈々子」と、なぜか香織に感心される。


「私だったら、久瀬さんと一対一で話すのに緊張して、自然体でいられないよ。一緒に仕事ができる奈々子が羨ましい反面、心臓がもたないから別でよかったかもしれない」

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