エリート御曹司は獣でした
そのニンニクはごく少量で、私は味も香りも感じなかったのに、香織はひと口めで顔をしかめた。
嫌いな人は、その味に敏感になっているから、少量でもすぐにわかるものらしい。
久瀬さんも同じ理屈で、ポン酢に気づかずスルーすることはできないと思われる。
私が考えに沈んでいたら、久瀬さんが大理石風のトイレの床を見ながら、ボソリと呟いた。
「ポン酢の味で、あの時のことを思い出してしまうからな……」
それを独り言として終わらせずに、「あの時って、なんですか?」と尋ねたのだが、「なんでもない」とごまかされてしまった。
「これ以上、ふたりでトイレにこもっていたら長野さんたちに怪しまれる。俺が先に戻るから、少し遅れて相田さんも戻ってきて」
「はい……」
教えてくれないことに不満を覚える。
壁を作られた気がして寂しくも思ったが、無理に聞き出すことはできそうにない。
私は、彼の秘密をたまたま知ってしまっただけの、ただの後輩なのだから。
久瀬さんは鍵を開けてドアから出て行き、ひとり残された私は小さなため息をつく。
彼女になりたいという贅沢な夢は抱かないけれど、もう少し、心の距離を近づけたいな……と願っていた。
嫌いな人は、その味に敏感になっているから、少量でもすぐにわかるものらしい。
久瀬さんも同じ理屈で、ポン酢に気づかずスルーすることはできないと思われる。
私が考えに沈んでいたら、久瀬さんが大理石風のトイレの床を見ながら、ボソリと呟いた。
「ポン酢の味で、あの時のことを思い出してしまうからな……」
それを独り言として終わらせずに、「あの時って、なんですか?」と尋ねたのだが、「なんでもない」とごまかされてしまった。
「これ以上、ふたりでトイレにこもっていたら長野さんたちに怪しまれる。俺が先に戻るから、少し遅れて相田さんも戻ってきて」
「はい……」
教えてくれないことに不満を覚える。
壁を作られた気がして寂しくも思ったが、無理に聞き出すことはできそうにない。
私は、彼の秘密をたまたま知ってしまっただけの、ただの後輩なのだから。
久瀬さんは鍵を開けてドアから出て行き、ひとり残された私は小さなため息をつく。
彼女になりたいという贅沢な夢は抱かないけれど、もう少し、心の距離を近づけたいな……と願っていた。