エリート御曹司は獣でした
これなら下心がありそうに聞こえないはずだと思っての言葉であり、嘘偽りなく、とっておきの黒毛和牛の高級コンビーフを秘蔵している。

料理に使うのはもったいないほどの美味しいコンビーフで、スライスしたバゲットにのせてそのまま食べるのがオススメだ。

けれども言ってしまってから、女性らしさの足りない誘い方だったと気づき、今度はそのことに恥ずかしくなる。

また肉の話だと、呆れられそうな気もしていた。

やっぱり、『暖まっていきませんか?』と言うのが適切だったかと後悔していたら、久瀬さんがプッと吹き出して、私の頭を親しげにクシャクシャと撫でた。


「腹いっぱいで、なにも入らないよ」

「そ、そうですよね。長野さんに付き合って、久瀬さんもかなり食べていましたよね……」


ああ……穴があったら入りたい。

久瀬さんも私も満腹だとわかっていたのに、なんで肉を勧めるのよ、私の馬鹿。

必死に笑顔をキープしているが、顔に熱が集中し、逃げ出したくなっていた。

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