たぶんこれを、初恋と呼ぶ



「まあ、元気出せよ。2〜3年に1回だけだし、その中でもデザイン自体に掛かる期間は短い案件だし、仕事内容はそんな大変じゃねーから。最初の内は経験積ませる為に営業部の若手もいるし、最悪最初の掴みはそっちに任せれば」

「どの口が言ってるんですか…今まで散々最悪だとか辞めたいとか言ってたじゃないですか。正直に言ってくださいよ…」

「おお、まじか。それなら言っちゃうけどな、お前な、まじであの空間は地獄だから。
パリピな女しかいねーし俺らみたいな人種は常に下に見られてんだよ。彼女いないって知られたらまじすげえ馬鹿にした目で見られるから。できるわけねえよな、みてーな事平気で言ってくる女いたぞ。だからな、いっそ結婚してるって嘘でも言っといた方がいいぞ。自分より下だと思ってた奴が結婚してるって思えば、独身よりかはそんな分かりやすく馬鹿にはしてこねーだろ。
よし、これやるよ、ちゃんと薬指つけとけよ」


経験者のアツシさんの本音は、やはり重たい。

俺がやる気を出す為に課長共々明るい言葉ばかり選んでくれていたようだが、やはり真実はこれだ。


アツシさんが本音を垂らしながら何かを握って突き出してきたので、恐る恐るそれを受け取った。



「…え、アツシさん、何でこんなの持ってるんですか」

「前々回俺が今言った被害に遭ったからだよ。前回見栄張って既婚者だって言って指輪してたら少しマシになったんだよ」

そう、アツシさんから受け取ったのはシルバーリング。
幾らするものなのか見た目じゃわからないが、左手の薬指にはめておけば立派な結婚指輪に見える。


「まじすか…アツシさん、流石にイタすぎます…」

「うるせえ、お前だって同じ目にあうぞ。心配してアドバイスしてやったんだから感謝しろ!ほら、騙されたと思ってはめとけ」


確かに。相手がそんなやばい女達なら、俺も絶対からかわれる。



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