たぶんこれを、初恋と呼ぶ


「つーか、仮にも取引先ですよね。その話聞く限り相手の態度失礼じゃないですか?他にデザイン会社なんて幾らでもあるでしょうよ」


うちの会社は主に自動車や航空機、宇宙機械等の部品となる製品を開発・製造する会社であるが、2〜3年に1度社長の趣味で、社員からアイデアを集めて面白いと思った物の開発をし、一般向けに商品化したり産業物産展に出展したりしている。

研究開発部が主となって開発を進めていくのだが、なんせ機械好きな男だらけの職場だからなのか、うちにはそう言った一般向けのデザインや広告を作れる人材がいないのだ。

その時だけ、わざわざ外部のデザイン事務所のMSMに依頼しているのだ。



「ああ、知らないっけ?MSMの社長が、うちの社長の甥だとかで懇意にしてるんだと。依頼はうちがしてるから客はこっちになるんだけど、ほぼ無償で請け負ってもらってる」

「え、ボランティアって事すか?」

「必要実費だけこっち持ちだけどな。向こうも若いデザイナーが多いから、若手を育てるのに丁度いいとかで褒賞はいらないそうだ。その若手の態度が問題なんだけど…あちらの社長さん、結構その業界では実力派で有名らしくて、社長個人が忙しくて若手の育成にまで直接関われないらしいんだよな。だからあんなフリーダムな感じになってるらしいぞ」

「そうなんすか…」

「まあ結果、毎年結構いいデザイン作ってもらってるから、何とも言えないわけだ。そっちの業界にも顔が効くらしいし。で、研究開発としては昇進する前に、今後も円滑に行くように先方の社長と親しくなっておくという為でもある」

「はは…」


大丈夫か、その会社。
うちの会社はそういったコネがあるから甘いけど、他の会社とうまくやっていけんのかよ。


「ちなみにもう一つ、独身率の高い研究開発の為に女性との出会いを作ってあげようという社長のお節介もあるらしい」

「社長、うちの部の事そこまで気にしてたんですね…」

「とりあえずお前の仕事は、先方にうちの製品の良さを事細かく説明して理解してもらえるかだ。それによってデザインと広告の質が変わるから」

「…努力します」


百歩譲ってからかわれるのはいいから、どうか話が通じる人が担当でありますように。



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