たぶんこれを、初恋と呼ぶ


「ちょうどお昼になりますけど、宜しかったらランチどうですか?事務所の下のカフェレストランが美味しくてオススメなんです」

「あ、すみません、折角なんですが僕この後他に回るところがあって…安尾さんどうですか?」

「え?」


先方の社長も江藤も居ないって事は、俺と彼女の2人だけ?

だめだ、耐えられない。


そんな俺を見かねてか、それとも彼女も気まずさがあるのか、「もし忙しいようでしたら、また次回にでも」とにっこりと笑って言った。


出口付近で、腹痛がピークを迎えた。
今朝飲んできた薬もそんな効いたような気もしないし、時間的にも効力が切れる頃だった。


「すいません、お手洗いお借りしてもいいですか」

「あ、どうぞ。その廊下の突き当たりです」

「安尾さん、俺行かなきゃいけないんで、先に出ますね。百合川さん、これから宜しくお願いします」


俺のトイレが長くなると思ったのか、江藤は早々に切り上げて去っていった。

俺も早くトイレに行こうとしたら、彼女が「安尾さん」と声を掛けてきて、どきりとした。



「私の勘違いだったらすみません。もしよかったら、これ、鎮痛剤なんですけど…」

「え?」

「打ち合わせ中ずっとお腹さすってらしたので。どうぞ」


彼女の手には、錠剤と、ペットボトルの水があった。


打ち合わせ中、腹痛なんてみっともないのでバレないように、机の下でさすっていたのだが。
もしかして彼女は、俺の事を少しは気にしていてくれてのだろうか。

それとも、これはただの親切心で、俺の事なんてとっくに忘れてしまっているだけ?



「あ、ありがとうございます」


タイミングなのか俺の腹が単純なのか、彼女の優しさに触れて、何故か腹痛も治まってきたような気がしてきた。


驚く事に本当に腹痛が治ったのだが、トイレに行くと言った手前、トイレの水道の冷たい水で顔を洗った。


夢の中にいるように、何かおかしい。


< 19 / 116 >

この作品をシェア

pagetop