たぶんこれを、初恋と呼ぶ
「ちょうどお昼になりますけど、宜しかったらランチどうですか?事務所の下のカフェレストランが美味しくてオススメなんです」
「あ、すみません、折角なんですが僕この後他に回るところがあって…安尾さんどうですか?」
「え?」
先方の社長も江藤も居ないって事は、俺と彼女の2人だけ?
だめだ、耐えられない。
そんな俺を見かねてか、それとも彼女も気まずさがあるのか、「もし忙しいようでしたら、また次回にでも」とにっこりと笑って言った。
出口付近で、腹痛がピークを迎えた。
今朝飲んできた薬もそんな効いたような気もしないし、時間的にも効力が切れる頃だった。
「すいません、お手洗いお借りしてもいいですか」
「あ、どうぞ。その廊下の突き当たりです」
「安尾さん、俺行かなきゃいけないんで、先に出ますね。百合川さん、これから宜しくお願いします」
俺のトイレが長くなると思ったのか、江藤は早々に切り上げて去っていった。
俺も早くトイレに行こうとしたら、彼女が「安尾さん」と声を掛けてきて、どきりとした。
「私の勘違いだったらすみません。もしよかったら、これ、鎮痛剤なんですけど…」
「え?」
「打ち合わせ中ずっとお腹さすってらしたので。どうぞ」
彼女の手には、錠剤と、ペットボトルの水があった。
打ち合わせ中、腹痛なんてみっともないのでバレないように、机の下でさすっていたのだが。
もしかして彼女は、俺の事を少しは気にしていてくれてのだろうか。
それとも、これはただの親切心で、俺の事なんてとっくに忘れてしまっているだけ?
「あ、ありがとうございます」
タイミングなのか俺の腹が単純なのか、彼女の優しさに触れて、何故か腹痛も治まってきたような気がしてきた。
驚く事に本当に腹痛が治ったのだが、トイレに行くと言った手前、トイレの水道の冷たい水で顔を洗った。
夢の中にいるように、何かおかしい。