たぶんこれを、初恋と呼ぶ
「あれ、失礼ですけど百合川さんって去年まで事務にいらっしゃいませんでした?」
「ええ、今年からデザインの方に引き抜きました。お恥ずかしながら、うちのデザイン部は現在若手の育成に手が回っていなくて。百合川はデザインの学校を出ているわけでもなく知識は無かったのですが、とにかくセンスがありまして。デザインを勉強させたところ、吸収も早くてね。まさかこんな逸材がいたとは、私とした事が見落としてました。まだデザイナーとしての経験は浅いですが、発想力とアイデアセンスは誰よりもいいです。是非期待してください」
「社長、冗談はやめてください。反応に困ります」
「またまた。本心だよ」
うちの営業の江藤の言葉に、先方の社長が答えた。見た目とは裏腹に、思ったよりも優しい社長なのかもしれない。
とにかくべた褒めで、彼女がどれ程いいデザイナーなのかが伝わってきた。
俺は高校生の頃の彼女しか知らないので、こうして彼女の仕事を聞くのは新鮮だった。
初回は顔合わせと商品説明、軽い打ち合わせのみだったので、時間はかからなかった。
何より、商品説明して理解されるかどうかが不安の種だったのだが、彼女の理解は速く、その為スムーズに終わった。
事前にうちの会社と、今までの例をよく調べていてくれていたらしい。
先方の社長が仕事があるとこの場から抜け、彼女も少しの間席を外した。
隣に座る江藤が、「百合川さんで良かったですね」と耳打ちしてきた。
「え?」
「百合川さんですよ、さっきの担当の。デザインに回ってもすごい仕事できそうだし、可愛いし、事務だった時もすごい親切だったんすよね。岩田さんも、百合川さんがデザイン担当だったらいいのにって言ってましたし」
「え、アツシさんが?」
「はい。ていうかうちの会社の営業は皆言ってますよ。研究開発の方はこういう時だけですけど、営業は結構他の仕事でも関わる事ありますし」
「へえ…」
そんな話をしていたら、彼女が部屋に戻ってきた。
「お待たせしました。今回の件、担当は私がさせて頂くのですが、デザインは私の他にこちらの佐伯と中村も参加させていただきます。宜しくお願いします」
そう言って頭を下げた彼女の隣には、すげえ茶髪のボブの若い女性社員と、これまた化粧の濃い女性社員立っていて、2人とも江藤から俺を下から上までジロリと見て、明らかに俺に対しては「担当こいつかよ」というような表情で、「〇〇で〜す」と語尾を伸ばして自己紹介された。
アツシさんが言ってたのはこれか。
これで社会人、しかも正社員かよ。
2人は挨拶だけして自分のデスクへ戻っていった。
残った彼女が「…すみません」と困った様に頭を下げていた。