契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
社交的で活発な叶夢に誘われ、俺はいろいろな遊びを覚えた。
サッカー、缶蹴り、鬼ごっこ。ときどき毬亜につきあって、ままごともした。
ふざけた悪戯をして施設の職員に怒られることもあったが、無関心な母親に育てられた俺には、怒られる経験すらも新鮮だった。
「お前、どうしてここに来たんだ?」
「ん? お母さん、火事で死んだから」
「そっかー。俺んちは事故だ。でもさ、ここの施設長に、俺の名前は親の願いが込められたスゲーカッコいい名前だって教えてもらってから、めそめそすんのはやめた」
トム……まだ漢字の読めなかった当時は、その響きだけで「うん。確かにかっこいい」と納得したのを覚えている。
そして、自分の意思をハッキリ周囲に示せる彼の性格も、子どもの俺のあこがれだった。
叶夢やこの施設のおかげで俺の世界は色を持ち、毎日が楽しかった。
俺はここで、本当の家族を見つけたんだ――。
そう思うと、過去なんてどうでもよくなったし、この先も前向きに歩いて行こうと思えた。