契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「……よし。俺たち、一緒に和菓子職人になろう」
「うん!」
そうして、俺は叶夢とともに和菓子職人になることを約束したのだった。
それからときどき施設の人に頼んで白玉粉と餡子を買ってきてもらい、叶夢とふたりで簡単な大福を作った。ふたりで手作りした和菓子の味は、美味しさも感動もひとしおだった。
とはいえ実のところ、俺は本気で和菓子職人になりたかったわけじゃない。
ただ、叶夢と一緒に大好きな和菓子について語る時間が楽しく、大人になってもそれが続けばいいのにと、思っていただけだったのだ。
けれどしばらくして、甘い夢は儚く散ることになる。
それは俺と叶夢がそろって小学校に入学し、学校生活にようやく慣れたころだった。
いつものように二人で一緒に施設に帰ると、駐車場に見慣れない高級車が停まっていた。
職員のものでない車がそこにあるときは、だいたいとある〝客〟が来ているときだ。
俺たち施設の子どもは、それをよく知っていた。
「……今回は誰がもらわれていくんだろうな」
「ま、小学生の俺たちじゃないのは確かだな。もらい手になる人たちは、子どもが小さいうちに引き取りたいって思うらしいから」
つまらなそうに放った叶夢の言葉に納得し、俺はすっかり他人事で施設の中へ入っていったのだが。