契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「あっ、彰くんおかえりなさい、ちょうどよかった。ちょっとこっちに来て」
ランドセルを下ろす暇もなく施設長に呼ばれて、言われるがままに応接室のような場所に移動すると、そこには一組の夫婦がいた。
「こんにちは、彰くん」
「学校、お疲れさま」
にこにこと俺に微笑みかけるその人たちには、なんとなく見覚えがあった。
確か、月一の特別おやつの日……この人たちがお菓子を持ってきてくれたことがあったような。
「道重堂のひと……?」
記憶を頼りに問いかけると、夫婦はうれしそうに顔を見合わせる。
それから、俺のそばにいた施設長が、二人が道重堂の社長夫妻であることと、彼らがここにいる理由を俺に教えたのである。
「彰くん。この方たちはね、あなたのお父さんとお母さんになりたいって思ってくださっているの」
……俺の、お父さんとお母さんに?
そう言われても、俺は生い立ちのせいで普通の両親のイメージも知らないし現実味なんか全く湧かず、ただキョトンとするだけだった。