契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
しかし、それを聞いた叶夢は盛大なため息をつき、じろりと俺を睨んだ。
「ばかじゃねーの? そんなの無理に決まってるだろ」
「でも、俺たち家族みたいなものなのに……」
思わず呟くと、叶夢は読んでいた本を閉じ、怒りを抑えたような声でこう言った。
「……そこまで言うならさ、道重堂の社長の家に行く権利、俺たち兄妹に譲れよ」
「え……?」
「金持ちの、しかも夢だった和菓子屋の家の子どもになれるなんてさ……。もし俺がお前だったらって、あり得ないこと望んで、最近たまんねえんだよ……」
無理やり絞り出したような声で胸の内を明かした叶夢に、俺はなんと言っていいのかわからない。
〝じゃあ譲るよ〟――すぐにそう言えたならよかったのかもしれないが、俺には新しい両親となる二人を慕う気持ちが少なからず芽生えていて、彼らの優しい顔を思い浮かべると、譲るだなんて言葉はとうてい口にできそうになかった。