契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「……これ。せんべつ」
ぶすっとしたまま言う叶夢を、俺は照れているのだと思い込んで素直に大福を受け取った。ずっしりと重くて、ひとつ食べただけでお腹いっぱいになりそうだ
「ありがとう」
素直にお礼を言った俺に、叶夢はそっぽを向いたまま「食べてみろよ」と言った。
俺はこくりと頷き、大きな口を開けて大福にかぶりついた。
しかしその瞬間……口の中に広がったのは、不快な味と食感だった。
俺は反射的に、食べたものをぺっと吐き出す。
「叶夢……? なんだよ、これ……」
それでも口の中に残る、じゃりっとした固く細かい感触。
手にしている残りの大福を見てみると、外側の餅は本物だが、中は餡子などではなく、泥でできた餡子だった。
涙目になりながら愕然とする俺に、叶夢は冷たく言い放つ。
「……お前なんか、裏切り者だ」
俺を突き放すそのひと言と、いつまでも舌に残る泥の味に、視界がぼやけて揺れる。
俺が、悪かったのかな……。俺が、道重の家に行くことを拒否して、叶夢や毬亜と過ごすことを選んでいれば、こんな別れにはならなかったのかな……。