契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「叶夢……ごめん。俺だって、もっとお前といたかったよ……でも」
「いいよ別に謝んなくて。せーぜーいい暮らししてろよな。でも、これだけは覚えとけ。俺が大人になって施設を出たら、どんな手を使ってでも道重堂を潰すから」
そう言った叶夢の、さげすむような瞳に耐えられず、俺は逃げるように両親のもとへ戻った。
大泣きしながら口の周りを砂だらけにする俺を両親は心配したが、叶夢のしたことを言いつけるような気にはならず、「転んだだけ」と嘘をついたのだった。
餡子が食べられなくなっているのに気づいたのは、その数日後だった。
ある日、後継者になる第一歩として、まずは和菓子を作る作業を見学させてもらうことになった。
本店の職人たちの前で父に「私の跡継ぎになる、息子の彰だ」と紹介され、嬉しいようなくすぐったいような気分だった。
厨房で和菓子を作る様子を一通り見学したあと、実際に作りたての和菓子を試食させてくれることになった。
そのとき父は店舗の様子を見に行っていて、俺のそばには当時まだ若手職人だった倉田がいた。