契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
しかし、当時父はまだ六十代前半。退任するには早すぎるのではと進言したこともあったが、彼の意思は固かった。
「私と母さんには夢があるんだ。今までも、彰がいたような施設に多少の援助とお菓子を提供するという活動はしてきたが、もっと直接的に子どもたちの助けになれないものかとずっと思っていてね。それで、自分たちの手で施設をつくって運営しようということになった。彰なら、応援してくれるだろう?」
そう言われて、俺は久々に施設での過去を思い出す。
叶夢との確執で後味こそ悪かったが、あそこにいられた時間は、かけがえのない優しい時間だった。
居場所のなかった俺を受け入れ、死にかけていた感情を取り戻させてくれた。
そんな場所を増やそうとしている父と母に、反対なんかするはずがない。
「ああ。応援するよ。道重堂は、俺に任せてくれ」
「頼もしいな。お前が息子で本当によかったよ」
……と、そこまでは何の問題もない、平和な親子の会話だったのだが。
「ところで彰、お前、誰かいい人はいないのか?」