契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「パパの紹介だから会いましたけど、私本当は和菓子より洋菓子の方が好きだし、vanillaの若社長狙ってるんですよね~。もしかして、お知り合いだったりしません? 紹介してほしいなーなんて」
そのころ、洋菓子界に彗星のごとく現れたvanillaがどんどん知名度を上げていて、俺もその名前は知っていたが、若社長とやらのことは全く知らなかった。
「いや、知り合いではないけど」
というか、和菓子にも俺にも一切興味のないきみとはもう会話をしたくないのだが。そんな投げやりな気分でいた俺の耳に、信じられない名前が飛び込む。
「そっか~。確か、日本人なのにトムって言うんですよぉ。金髪のよく似合うイケメンで」
「トム……だと? 苗字は?」
「えっと……確か、平川、だったかな?」
施設を出てから、消息すら知らなかった叶夢の情報をもたらされ、俺は懐かしい気持ちになった。
しかし同時に、あの苦い記憶までもが蘇ってしまい、胸に微かな動揺が走る。
「……じゃ、きみがその平川氏とうまくいくよう願ってるよ」
心にもないことを言って見合い相手の前を去り、三人目もダメだったなと苦笑した。