契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「なるほど……ケーキの名前だったんですか」
拍子抜けして頷きながら、ようやく胸のつかえが薄れていくのを感じた。
彰さんが愛してるのは私でなく、ほかの女性――それは私の完全なる思い込みで、まったく事実ではなかった。
「それなのに、私ってば勝手に誤解して、花火大会で彼女にちゃんと挨拶もできませんでした。……今度、謝りたいな」
「ああ、それなら今度連絡しておくよ。話してみれば、甘いものに命を懸ける者同士、お前たち気が合うと思うぞ」
「ホントですか? お会いするのが楽しみです」
歳も近そうだったし、友達になれるかもしれない。
彼女がライバルでないとわかった途端、急に気分が上向く自分の単純さに呆れる。
やがて会話が途切れ、私はいつになっても車を発進させない彰さんを不思議に思って横を向く。
すると、彼は片手をハンドルに掛け、じっと鋭いまなざしをこちらに向けていた。
「彰さん……?」
それはまるで、夜の闇の中で獲物を探すオオカミの瞳のよう。
獰猛な色をはらんだ危険な雰囲気が漂い、思わずドキッと胸が鳴って、彼から目が逸らせなくなってしまう。