契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
その夜は何度抱き合っただろう。
力を使い果たして彰さんの腕枕でうとうとしていると、まだ眠くないらしい彰さんが、静かに話し出した。
「結奈……お前さ。今の会社辞めて、道重堂を手伝わないか?」
「えっ?」
ふわふわとしていた思考が、一気にクリアになる。
今……彰さん、なんて言いました? 会社を辞めて、道重堂を手伝う?
「どうしたんですか突然……」
上目遣いに彼を見つめると、彼は布団の上から優しく私の体をさすりながら言う。
「もちろん、結奈がよければの話だが……商品開発か、あるいは広報活動に関する部署に、お前のような人材が欲しいんだ」
「道重堂の、商品開発か、広報……」
思ってもみない提案だったけれど、ときめきに似た胸の高揚を感じた。
……私、やってみたい。仕事内容もわからないうちから、そんな強い意欲だけは湧き上がって来る。
グルメ雑誌の編集という今の仕事も好きだし、会社でも可愛がってもらった方だと思う。
新しい企画も任されたところだし、花ちゃんと離れるのも寂しい。
だけど……ずっとずっと愛してきた和菓子に関する仕事に専門で携われるのなら、私にとってそれ以上の天職はないような気がしてならない。