契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
そこには、目を真っ赤にして悔し涙を流す、毬亜さんの姿があった。
私は隣の彰さんを見上げ、背伸びをしてこっそり耳打ちする。
「彰さん……毬亜さんに、何か言ってあげなくていいんですか?」
兄妹のような間柄の彼なら、毬亜さんを励ますことができるんじゃないかな。
「……毬亜もプロだ。下手な同情は逆に彼女を傷つけるだけだよ。それに……」
彰さんが見ている先で、毬亜さんのもとに近づいて行ったのは、倉田さんだった。
かぶっていた帽子を取って、握手を求めている。
その姿は職人として〝いい勝負だった〟と彼女に敬意を表したように見えた。
毬亜さんはますます目を赤くして泣いてしまったけれど、なんだか温かい気持ちになる光景だった。
「大丈夫そうですね」
「ああ」
毬亜さんと倉田さんが互いを認め合う姿に感動しつつ、私は彰さんと微笑み合った。
平川さんが横槍を入れた時にはどうなることかと思ったけれど、無事に道重堂の勝利で幕を閉じたイベントは大成功に終わり、私たちの仕事も終了した。
まだ夕方の時間帯なので、彰さんとパリの街でも散策したいなぁと思うのだけれど……。
彼は現地の知り合いや同業者の社長、そして多くのパリジェンヌたちに囲まれてなかなか自由にさせてもらえそうになかった。