契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~

「……何やってんだ。結奈だけは譲れないって、前にも言っただろ」

地の底から聞こえるような低く怒りに滲んだ声が、ベンチの後ろの方から聞こえた。

平川さんはスッと顎から手を離し、がっかりした口調で言う。

「なーんだ。邪魔者来ちゃった」

私は声のした方を振り向き、泣きそうな顔を彰さんに向けた。

「よかった……彰さん! もうっ! この人ってば手癖が悪くて!」

ベンチから降りて旦那様のもとへ駆け寄ると、平川さんがどこか寂し気に話し出した。

「全く……彰って、結奈のこととなるといつもマジになるのな。花火大会の日もそうだった。俺が先に結奈のこと追いかけようとしたのに、お前がすんげえ力で俺の腕掴んでさ。〝結奈のことは俺が追いかける。いくらお前に負い目があっても、彼女のことだけは譲れない〟とか言ってんの」

知らなかった。あの時、二人の間にそんな会話があったなんて。

あの時私は不安に揺れていたけれど、彰さんは私だけを見て、真摯に想ってくれていたんだ。

初めて知る事実を嬉しく思っていると、平川さんはあからさまに私たちを馬鹿にして言う。

「……だっせえよな。夫婦のくせに、青臭い恋愛しちゃって」



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