契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
私は胸に小さな引っ掛かりを覚えたけれど、目の前の門が開いて家の全貌があらわになった瞬間、そんなものは消し飛んでしまった。
「す、すごい……」
まず目に飛び込んでくるのは、広々とした和風庭園。松をはじめとする手入れの行き届いた木々、大きな石灯篭、中心には錦鯉の泳ぐ池まである。
その奥に、平屋建ての立派な家がどっしり構えていた。
「京都かどこかの旅館に来たみたい……」
門をくぐり一歩その空間に入ると、別世界に飛び込んだようだった。
「だろう。この庭はこだわったんだ。家にいながらにして、四季の移ろいを感じられる」
敷石の上をゆっくり歩きながら、並んで歩く彰さんが教えてくれる。得意げなその横顔は、やっぱり悔しいほどかっこいい。
今日の彼はラフな私服だけれど、これが和服だったらさらに風情があるんだろうな。そんなことを思いながら、彼に問う。
「彰さんは、普段ここにおひとりで住まわれてるんですか?」
「ああ。ひとりなのに、って思うかもしれないが、俺はマンションが苦手なんだ。息苦しくてな」
「へえ。マンションが苦手……」
怖いものなしに見える彰さんでも苦手なものがあるんだ。