契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~

「そんな結婚、よく受け入れましたね。自分を愛してない人と一緒にいるなんて、私なら耐えられませんけど」

いまだ自分のカルボナーラに手を付けず、テーブルに頬杖を突く花ちゃんが呆れた顔をする。

私はほおばったナポリタンで汚れているであろう口に紙ナプキンを当てつつ、現在の心境を彼女に聞かせた。

「愛されてはないけど、道重堂の新作が出たら優先的に試食させてもらう条件もつけてもらったし、私に心から結婚したい人が現れたら離婚する約束なの。だから、わりと気負わず彼と接してるかな」

「……ふうん。夫婦だけど同居人みたいな感じなんだ。じゃあ、キスとか夜の夫婦生活ももちろんないわけですね?」

花ちゃんの質問に「そんなの当たり前でしょ」と返そうとして、ふと固まった。

夜の生活はもちろんないけど、キスは……そういえば一度だけ。

特に甘い理由はなく、彰さんにとってはご褒美だったらしい、触れるだけのキス。

キスなんてご無沙汰だった私にとっては、あの求肥みたいな柔らかさやほんのり感じた彼の体温を、なかなか忘れられない。



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