上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※
そのキャビネットは中で3段に区切られているが全面がガラスの窓となっている。
落ち着いた濃いブラウンの木材を使用していて高価そうな食器とグラス、あとお酒らしいものが数点だけ飾られている。
そして下段の隅にCHAINONの文字を見つけた。だけどこの商品はオーダーメイドの品だ。
それも普通のオーダーではなくてお父さんが直接携わったもの。
刻印されてるCHAINONの文字でわかる。
「インテリアが好きなのかね?」
ハッとして後ろを振り返ると結城課長のお父様がいた。
「あ……素敵なキャビネットですね」
「これは父さんが惚れ込んだ家具店に無理矢理頼んで作ってもらったんだよ」
近くにいたお兄さんがお父様の代わりに答える。
「とても丁寧な仕事をするところでね、 気に入ってるんだよ」
結城課長のお父様は懐かしそうにキャビネットに触れながら教えてくれた。
まさかこんな所で見つけちゃうなんて。
しかもこれをデザインしたのはお母さんだ。
お父さんは昔、社長というよりも職人として作っていることが多かった。でもそのうち会社が大きくなって社長業に集中しなければいけなくなってから今は趣味程度に作るくらい。
このキャビネットはお父さんが最後に手がけたものだ。
私が中学生の頃だったから10年は経っているはず。
それでもこうやって、いつまでも大切にしてもらえるんだ。
自分のことじゃないのにとても嬉しくて心が温かくなるのを感じた。