上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※


「亜子。先に部屋に入っててくれ。きちんと説明する」

真っ直ぐ見つめてくる彼の瞳から逃げることができずにそのまま部屋の鍵を受け取ってしまった。


結城課長はふらつく女性の腰に腕を回して支えながらマンション脇にある公園の方へ消えていった。


お酒を飲んでふらふらになっていた女性は会社の前で何度か結城課長と一緒にいた人だった。
2人の姿が見えなくなって私は結城課長の言う通り部屋へ向かおうと歩き出す。
エントランスに入る扉の前まで来るとそこから動けなくなった。



本当にこのままでいいの?
頭の中でぐるぐると考えが巡る。
大人しく結城課長の言う通り部屋で待ってる方が良いに決まってる!


でも……もう今の状態でいいわけない。
ちゃんと気持ちを伝えたい……。


私は向きを変えて結城課長と女性が歩いて行った公園の方へ向かった。
暗闇の中ゆっくり歩いて行くとベンチに座る2人の後ろ姿が外灯に照らされている。
2人の元へ行くべく一歩進めた瞬間決定的な言葉が耳に入った。



「こんなに好きなのに……お願い。側にいて……」

結城課長の胸の中で泣いている女性の背中を優しく撫でながら、彼は私が1度も聞いたことのないような優しい声で女性に語りかけた。


「離れるわけないだろ」


一歩ずつ近づいてた私の足はそこで止まり、そのまま振り返ってその場を後にした。


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