上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※

その声は一歩ずつ進むたびに近づいていく。人通りのない暗闇の中で入り口の前にある階段にうずくまりながら座っている女性の人影を外灯が映し出しているのを見て異様な胸騒ぎを感じた。



「……ける〜。たける〜早く来てよ……」


隣にいる結城課長が立ち止まると一瞬私の手を握っている力が強くなった。


「真奈美か?」

彼が名前を口にすると階段に座り込んでいた人物はこちらを見てふらふら〜っと立ち上がり足元がよろめきながら私たちの方へ来ようとする。

女性はふらつきながら歩こうとするけど上手く歩けず膝から崩れ落ちるように地面について、それを見た結城課長は私の方に顔を向けて一言だけ言った。


「亜子、悪い」


掴んでいた私の手を離すと結城課長は彼女の元へ走って行った。
それはまるで映画のワンシーンのようでスローモーションのようにゆっくりしたものだった。


行かないでっ‼︎
そう言って止めたかったのに私の体は声を上げることも手を離さないように繋ぎ止める力も何もしないまま突っ立っていることしかできなかった。


「真奈美! 何でここに来た! おまっ……酒飲んでるのか?」

「たける〜? エヘヘ〜来ちゃった」


結城課長は女性の背中に手を当ててトントンと優しく当てながら地面をジッと見つめた後、女性に何か耳打ちをしたかと思うとそのまま立ち上がって私の元へやって来た。


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