ヴァンパイア夜曲
へたっ…!
あまりの緊張に腰が抜ける。
倒れる体を支えたシドは、ワンピースの彼女をじっと睨んだ。
「お前は、一体……?」
透明な彼女は、シドの低い問いかけにわずかに目を細める。
ふわり、と裾をなびかせた彼女は、無表情のまま静かに答えた。
『…私は、ナディ。…貴方たちがここに来るのを、ずっと待っていたような気がするわ。』
(…!)
彼女は、そっ、と瞳に色を灯した。
その穏やかな口調に、警戒心が薄れていく。
『…私の話を、聞いてくださる…?』
彼女はこう言って、わずかに首を傾げたのだった。
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「…つまり、この日記の持ち主が教会のシスターであった“ティアナ”さんで、君は彼女の妹ってわけだね?」
『えぇ。』
腕を組んだランディの問いに、彼女はぽつり、と答えて頷いた。
『私は10年前、この町で流行した伝染病で死んだ住民の一人。…だけど、未練があって、ずっとここに居続けているの。』
どうやら、彼女は本物の“幽霊”らしい。
足がない透明な彼女。ベネヴォリで噂になっていた幽霊の話は、あながち嘘ではなかったらしい。
もともと霊感があったわけではないが、ここにいる全員が見えているあたり、彼女の強い“思い”が、私たちの瞳に彼女を映しているのだろう。
その時、黙って話を聞いていたシドが低く尋ねる。
「もしかして、その“未練”ってのは、ローガスのことか…?」
『!』