ヴァンパイア夜曲
するり、と解かれる腕。
驚いて隣を見上げると、にこやかな笑みを浮かべたままの兄は、ちらっと私へ視線を向けた。
トン…ッ、と軽く背中を押される。
無言の合図に言葉が出ない。
「お義兄さん、このまま貰っていいですか?」
「それは許さないよ、クソガキ」
シドと兄の数秒の会話。
まさか、全ては仕組まれていたのか。
その時。ぐらりと視界が揺らぐ。
「ひゃっ!」
流れるように抱きかかえられる体。
私を支えるのは、力強いシドの腕だ。
映画のワンシーンのように連れ去られる。
風のように過ぎ去る視界に映ったのは、ひらひらと手を振るランディと、全てを聞いていたらしいエリザの笑みだった。
「くそぉっ!!!父上、あんまりです!!僕の結婚式をぶち壊すなんて…!!」
「タンリオット。お前はここで一度己を見つめ直すんだ。……ほら、ことわざでもあるだろう。“親の甘いは子に毒薬”と。たまには毒薬を直に与えてみても良いと思ってな。“獅子の子落とし”も有名だ。我が子を谷に落とすように厳しい試練を課して立派な人間に育てるという……」
「聞いているのですか、父上…!!」