ヴァンパイア夜曲
何も知らされていなかったらしい城の兵が、混乱状態で慌てふためく。
タンリオットの勢いに押された男たちが、シドと私の行方を塞ごうと槍を構えた。
しかし、どこからともなく現れた白い軍服の集団が私たちの盾になっていく。それは兄の部下たちだった。
怯む城兵。実力主義の戦闘部隊を敵に回す者などいない。
もう一度整理するが、ここは結婚式場。戦場ではないはずだ。
その時、怒っているのか悲しんでいるのか分からないほど混乱したタンリオットは、つい、私を追おうと駆け出した。
しかし、彼のタキシードをぐん!と掴んで抱き込んだルヴァーノは、もはや新しいおもちゃを見つけたと言わんばかりに笑みを崩さない。
「ん?どこへ行く、王子。君は今からノスフェラトゥにお試し入団だよ」
「きっ!聞いていませんよ、そんなこと!!」
タンリオットは無理やり振り払おうとするが、軍隊を率いる幹部に敵うはずがない。
呆気なくズダン!と床に沈められたタンリオット。顔を恐怖でひきつらせる彼に、容赦ないルヴァーノの低い声が届く。
「あの二人を追うつもりなら、お兄サマを越えていきな」
「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」
タンリオットの悲鳴が城内に響き、私を抱きかかえたシドは、ベネヴォリの街を駆け抜けたのだった。