放課後の準備室、先生と。
放課後の準備室、先生と。
秋祭りが終わっても、日常は特別変わり映えしなかった。
相変わらず一番乗りの教室で、新しく買った本を開く。すぐに本の世界に入り込む私の肩を、トントンと誰かが叩く。
「おはよう、東」
爽やかな笑みと共に、佐藤が声をかけてくる。
__秋祭りのあと、帰宅後にスマホを開くと、佐藤から長文の謝罪メッセージが入っていた。
悪かった、身勝手を許して欲しい。たっぷり二時間ほど悩み、私は元の関係値に戻ることにした。もちろん、先生には全部伝えてある。
「おはよう、今日は早いんだね」
「ああ、隣のクラスのやつから、数学で抜き打ちの小テストがあるって聞いたから教えてもらおうと思ってな」
「……そうなの?」
「そう、おまけに成績に入るらしいぜ。一大事だろ?」
だから助けてくれとカバンから数学の教科書を取り出す佐藤に苦笑しつつ、栞を挟んで本を閉じる。続きは休み時間になりそうだ。
「ここは?」
「それは、この式を代入して……」
気がつけば、もうほとんどのクラスメイトが教室に入っていた。佐藤が話しかけられるたびに「数学で小テストがある」と言っていたおかげか、大半が数学の教科書を開いている。これでなかったらどうするんだろう?とか、勉強自体は悪いことじゃないからいいのかなどと思いつつ、一時間目が始まるギリギリまで、佐藤にテストで重要そうな点を教えた。
そうして授業をこなしてるうちに、気がつけば放課後だった。ちなみに数学の小テストはあって、佐藤はちゃんと、点数が取れていた。ただ、小テストは社会でもあって、そっちは全然だめだったけど。
「じゃあな、東! また明日」
「うん、部活頑張ってね」
佐藤を見送ってから、深く息を吐く。みんなすぐに帰るから、あっという間に教室は私だけになってしまう。
佐藤とあったことを全部、なかったことにはできない。忘れられるほど、私は大人ではない。だが、少しずつ、受け入れていかないといけないのだ。
ようやく、本の続きが読めると開いた瞬間に、ポケットのスマホが震える。
「……結局、今日は読めなかったな」
諦めて本を閉じ、帰り支度を済ませ立ち上がる。教室を出て、靴箱を通り過ぎ、離れ校舎に入る。
そして理科準備室、と書かれた扉の前で立ち止まり、3回ノックする。
「先生、私です。入りますね?」
ドアノブを回して中に入る。放課後はまだ、始まったばかりだ。