恋愛イデアル。
焼き肉を食べながら。
[焼き肉を食べながら]

イデアルは焼肉屋で焼き肉を食べていた。水守市(みずもりし)中央地区で。
長月遥やリンネが同席する。

(なつ)は暑かった。じりじりと(せみ)が鳴く。アスファルトの照り返しが行きかう人々に体感的な熱気を与えていた。

唐突(とうとつ)に。

「イデアルは文学上の事件って最近起きたと思うかしら」と長月遥。
イデアルは塩ソースをまぶした焼き肉を(はし)でつまむ手を止めて。
「なんだよ。
(やぶ)から(ぼう)に」
とイデアル。
「その小津安二郎の映画みたいな台詞回し(せりふまわし)も結局は我々は文学上の出来事だよ」
とリンネ。
「文学がもたらした弊害(へいがい)はその文学的な感性にあるという見方もできる」とイデアル。
「確かに」
焼き肉を食べる女子高校三人組はいくぶん世事(せじ)に通じていないようであった、とあとからイデアルたちは思うことになる。
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