365日のラブストーリー
「やっぱりそれ、いただきます。それにしても、神長さん。物欲しそうな目、はひどいです。たしかにわたしは食いしん坊ですけれど」

「欲求に素直なのは良いことじゃないですか? 綿貫さんにとっては」
 それじゃあ行きますか、と神長も立ち上がった。有紗は借りていたマフラーを外して、神長の首にかけた。

「マフラー、ありがとうございました。それから、わたしのためにお店に並んでくださって、ありがとうございました」
 神長は言葉の代わりに微笑みを返してくれた。

(いつの間にかどきどきが止んでる。それに……あんなことがあったのに、意外と普通で居られるような。……もしかしたらそこまで考えて、わざともの欲しそうな目、なんて言ったのかな)

 神長ならば、それくらいは気が回りそうだ。

(あれ? キスする前に頬を寄せてくれたのも、わたしの緊張をほぐすため?)

 震えるほど緊張していたのに、肌を合わせることで不安が解けていった。それに、もしあの話を聞かずに、何かの成り行きでキスでもしていたらどうだったろう。

その先を想像して不安になっていたかもしれない。そして、近いうちに『駆け引きもできないしもう恋は無理だ』結論づけていただろう。
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