365日のラブストーリー
(神長さんは、いつもうんと先回りして助けてくれてる)

 この繊細な気遣いに気づく人がどれだけいるだろう。人の顔色ばかり窺ってしまう悪い癖が、このときばかりは良いものに思える。他の人たちよりも神長の良いところをたくさん見つけられれば、きっと、深く好きになることができる。

「どうしました?」
「なんでもないです」
 有紗は緩んでいた口元を引き締めた。

「気になりますね」
 そんなことを言いながらも、この人は全部わかってしまっているのではないだろうか。含みのある笑顔を見ながら、そんな風に思えてくる。

(好きの度合いってどうやって伝えるんだろう。さっきは焦らない、そう言ったけど)

「神長さん」
 今度は自分からこみ上げてくる愛しさを伝えたい。有紗は勇気を出して背伸びした。

(と、届かない……!)

 距離感に驚いて神長が目を丸くした。唇までの距離の遠さは思った以上だ。愚かさと恥ずかしさで顔が熱くなったとき、神長が腰を屈めて、首を傾けてくれた。何をしたかったのか察したのだろう、どうぞ、と言うように、有紗からのアクションを待っている。
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