365日のラブストーリー
 有紗はおそるおそる神長の頬に触れてみた。それから大好きです、という想いを込めて自分の唇を神長に触れあわせる。

「すみません、こんなところで」

 行動を思い直すと、とんでもないことをしてしまったような気持ちになる。あまりにも積極的すぎて、ほんとうは引いてしまっているのではないだろうか。

 押し寄せては引く感情の波にひとりで溺れそうになっていると、背中に腕を回された。そのまま胸に引き寄せられ、有紗は包み込まれる安心感にそのまま身を委ねた。

 コート越しでは聞こえるはずのない鼓動が、聞こえてくる。自分のものなのか、彼のものなのかわからなかったが、わからないと思えることすら、有紗には信じられないことだった。これまでの自分であればそれを、自分自身のものだと信じて疑わなかったはずだからだ。

(そういえば、今日神長さんがわたしに話したいことがあるって言っていたけど)

 互いに対する感情は触れあうたびに確かめ合えたが、置き去りのままになっていることもある。坂巻のことだ。
< 332 / 489 >

この作品をシェア

pagetop