365日のラブストーリー
「困った人ですね」
「へ? わたしのことですか」

 熱っぽい目で見つめ返されて、唇の端がどうしても吊り上がってしまう。有紗は片手で自分の口元を覆った。二人きりの時にこんな風にされて、この人を好きにならない人はいないのではないだろうか。

 店員が戻ってきて神長の視線から逃れると、有紗はゆっくりと手を下ろした。
 注文したのは国産の白ワインだ。これもあの夫婦のお勧めらしい。

 二つのグラスに一杯目を注いで店員が下がる。グラスを口元に引き寄せる。口の中に広がるほどよい酸味とのど越しの良さが、上品な出汁の和食とよく合う。

「飲みやすくて酔っぱらっちゃいそう」
 有紗はぱたぱたと手で顔を仰いだ。

「万が一の時には、わたしだけタクシーに押し込んでもらえれば」

 言いながら、神長には絶対にそんなことはできないだろうと思った。具合が悪くなったときに、駅までわざわざ迎えに来て、自宅まで送り届けてくれたことだってあったのだ。神長は案の定、ものいいたげな目を向けてくる。
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